『サラバ!』西加奈子 ~あらすじ②~ 人生に揺れているあなたへ!
人生に揺れているあなたへ!
『サラバ!』西加奈子 上下巻
前回の続き、あらすじ②です。
歩は、リスペクトが女性にはあまり向かない、というところまで前回書きました。
歩がそういう意味で心惹かれたのは、いつも男でした。その一人は、カイロで出会った“ヤコブ”というエジプト人の男の子でした。聡明で、エジプシャンらしからぬ気品が漂う彼は、歩のリスペクトを独り占めします。二人は親友となり、共通の言語がなくとも会話が成立する、というほどまでに互いを信頼し、心を通わせます。この二人の友情の、あまりの美しさには涙してしまうほどでした。ヤコブとの合言葉であり、この時代の、歩の精神的支柱となる言葉が、この小説のタイトルでもある“サラバ!”でした。
ただ、歩は、ヤコブの存在をクラスメイトに打ち明けることはなく、たまたま出会ってしまったら隠そうとする面もありました。(当時クラスメイトとの間でエジプシャンと関わることはあまりいい心象が無かった)これは私個人の見解ですが、歩は自分の意思に常に忠実では無かったように思います。自分の好きな人、好きなものは確実にあるのに、常に誰かにどう思われるかを気にしたり、自分のポジションを気にしたり、プライドが邪魔をして、自分の本当の気持ちを言えなかったんだと思います。
両親の離婚をきっかけに日本へ帰国することとなり、ヤコブとは別れることになります。絶対にまたエジプトに戻ってくる、ヤコブに会いに来る、と決意した歩でしたが、日本での生活に慣れていくうちに、あれだけ精神的な支えだったヤコブの存在もその中に溶け込んで行きました。
彼のリスペクトを独り占めしたもう一人の人物が、大阪の高校で出会った、“須玖(すぐ)”という青年でした。彼は、もの静かで自ら多くを語るタイプではありませんでしたが、内に光るものがあり、内面から魅力がにじみ出てくる人間でした。同じサッカー部では、普段控え目なのに、プレーは貪欲でアブレッシブ。体育会系なのかと思えば、音楽・小説・映画など、芸術に造形が深い。ユーモアのセンスもあり、誰に対しても分け隔てなく接し、誰からも好かれる。歩は彼と親友になります。歩は、彼の良さを一番最初に見つけたのが自分であるということに誇りを持ち、彼のことを心から尊敬し、誰よりも彼を優先しました。(その時に付き合っていた綺麗な彼女より、心の中心に居たのは須玖だった)
ちなみに、この時、姉は既に高校に進学しておらず“サトラコウモンサマ”という宗教のようなものハマり、外の世界との関わりを遮断している状況でした。歩にとって、姉は自分にとっての最大の障害でした。(出来れば、実の姉だということを隠したいくらいだったと思います。)
しかし、ある出来事をきっかけに、須玖は学校に来なくなり、歩も、自ら連絡をとることは徐々に少なくなっていきました。
姉と母の関係や両親の離婚など、これまで様々な不穏が歩を襲い、その度“いい子”に徹したり、家庭ではなく外の世界に目を向けることで精神的な充実を手に入れようとしたりしてきた歩でしたが、須玖の事件をきっかけに、大阪を離れたい、母からも姉からも須玖からも、何もかもからフリーな状態になりたい、と強く思うようになり、大学進学を機に逃げるように上京します。
大学に入って最初の年、歩は不特定多数の女性ととにかく関係を持ちます。要するにヤりまくったんです。甘いマスクと、口にするだけで女の子に“東京ではウケる”関西弁があれば(何も面白いことは言っていないのに)、セックスフレンドに困ることはありませんでした。何かを吹っ切るように、とにかくヤリまくりました。
続きます。