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『サラバ!』西加奈子 ~あらすじ⑤&感想~ 人生に揺れているあなたへ!

人生に揺れているあなたへ!

サラバ!西加奈子 上下巻

前回の続き、あらすじ⑤です。

現在クズになってしまった歩。

 

幼い頃は見た目が可愛く、聞き分けも良く、姉と違って“いい子”で、皆から愛されれていた歩。 高校生に至るまで、クラスでは人気者で、容姿端麗なため女に困ったこともありませんでした。大学に入ってからも、相変わらず綺麗な彼女が傍に居て、ライターという夢をみつけ、成功に向けて猛進していたはずでした。いつだって上手くやっていました。故に、プライドもありました。

 

姉は歩に言います。“あなたは今まで私と自分を比べてただ揺れていただけよ。幹を見つけなさい。”と。家族として愛している、と姉は歩に伝えます。しかし歩は怒ります。今まで散々迷惑をかけてきたお前がどの口で言うんだと。

 

仕事も、大事な人も、歩には何一つ無い。

 

歩が相変わらずクズライフを送っていたある日、姉から一通の手紙が届きます。この手紙が歩の運命を再び突き動かしていくのですが…

 

続きは、実際に読んで頂きたいです。この続きを読んで、読者が自然に受け取るもの、得られる何かを、私の言葉で少しも色あせさせたくないからです。ここからは、私個人の感想コーナーになるので、読んでも大丈夫だよ!という方だけお読み下さい。

 

【感想】

人生において信じる何かを、自分以外の誰にも決めさせるな。歩には、信じるもの=幹が無かったんですよね。姉はその点、ちょっと変な宗教だったり、不可解なアート活動だったり、信じられる何かを常に探し続けて、それらを信じようとしていました。幼い頃の乱暴さや奇行も、最初は異常な承認欲求によるものだったんだろうけれど、その欲求はいつしか別の方向を向き、何か強いものを求めていくようになったんだと思います。そういう意味で、姉の人生は、周囲に迷惑をかけまくりつつも、常に何かを必死に探し、もがき続けた人生だったんだろうと思います。他の誰でもなく、自分だけが信じ続けられればそれでいい何かを。

 

歩も、実はその何かを無意識には探していたんじゃないかなと思います。ヤコブであったり、須玖であったり、どうしようもなく惹かれるものがありました。自分を支えてくれる強い何かを求めて惹かれたんだと思います。でもそれは、自分の信じるものではない。ただ憧れて、吸い寄せられただけのように思います。

 

歩は、周りに溶け込むのがものすごく上手いです。与えられた世界で、自分を出し過ぎず、出さなすぎず(いや表向きにはほとんど出していないかも)、上手に世界を楽しむことが出来ていました。でも、いつだって周囲の評価を気にしていました。幼い頃は母の機嫌をとり、姉を刺激しないように努めました。転校先の学校では、嫌われないよう最大限の配慮をし、思慮深い発言と行動を常に心がけました。自分を表現するより先に、周りが求めるものを考え表現していたと思います。中学時代からやっていたサッカーもそれなりに上手でしたが、始めた動機が周りに合わせたいから、だったので、早々に自分はプロにはなれないと諦めました。色々な面で器用貧乏だった気がします。でもそれでも良かったんです。だって、容姿端麗だし、女にはモテるし、学校ではバカをやってそれなりに楽しいし、世界は歩に優しかったから。

 

歩がライターとして堕落していったのは、最初に感じた情熱だけで仕事をしていたからなのかな、と少し思います。初めに感じた情熱の先に、それを続ける上での自分の中の確固たる目的のようなものが無ければ、大成しないのかも知れません。頭皮が薄くなる、なんて、非常に滑稽な描写ですよね。でも、人間は外見への自信が少し足りなくなるだけで、たやすく活力を失う生き物です。変わりゆく外見に頼らず、内面に、変わらない幹を持てということでもあるのかな。恋愛においても、歩は自分の心に嘘をつき、本当に愛していることに気付かないフリをしたりします。誰もが認める女でなければ、自分のプライドが許さなかったのです。(歩の一ファンとして、プライドが~なんて書くと彼が凄く傲慢な人間にしか見えなくなるかも知れないのですが、そういう部分だけじゃなく、優しい面もちゃんとあります。笑)

 

“芯”とか“幹”って本当に必要なんだって、私自身も、社会に出たあたりから考え始めました。多分これは遅いです。なんで気付くのが遅かったかと言うと、自分は芯のある人間なんだと思い込んでいたからだと思います。芯って、やりたいことや夢がある、とかっていう単純なことではないと思うんです。例え、弁護士になりたいから、消防士になりたいから、だから芯がある、とは必ずしも結びつかないんだと思います。愛している人が居るから、その人のためならなんだって出来るから、だから自分には芯がある、というのも必ずしも=にはならない気がします。今の私には、まだ上手く説明できないんだけどね。

 

作品の賞賛したい点は沢山あるんだけれど、総じて。西加奈子さんありがとうございました、面白かったですよ~!

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